社会保険料の変更とは?変更を反映させるタイミングや月額変更届についても解説
社会保険料の変更は、毎年7月に提出している算定基礎届と、標準報酬月額が2等級以上変動した場合に提出する随時改定によって行います。しかし、変更を反映させるタイミングや、手続きに必要な健康保険・国民年金被保険者月額変更届について正しく理解していない担当者もおられるでしょう。
従業員の社会保険加入は事業者側の義務ですが、正確な手続きが行われていなければ正確な保険給付がされない恐れがあるため注意が必要な処理です。この記事では、社会保険料の変更について詳しくご紹介します。
社会保険料とは
企業や組織に勤務する従業員の給料からは、社会保険料が天引きされています。そのため、あまり社会保険料の金額について意識することはないかもしれません。また、支払った社会保険料はどのように利用されているかについてもご存じない方が多いでしょう。ここからは、社会保険料について詳しく解説します。
社会保険料の仕組み
社会保険は、相互扶助の考えの下、国民に対して国が「最低限度の生活を保障」するための制度です。従業員や従業が病気・失業など困難な状況に陥った際には、公的支援のあらゆる場面で社会保険料が役立てられています。
たとえば、健康保険制度や厚生年金制度などの社会保険料は、保険料と国庫負担で管理・運用されています。
社会保険は原則加入が義務付けられていますが、事業形態や企業の規模、所得、年齢などに応じて種別や加入の要否が決まるものもあります。保険料は従業員ら被保険者と雇用側の企業が負担し、月毎の保険料額は標準報酬月額と保険料率をかけ合わせて算出する仕組みです。
なお、賞与の保険料額も標準賞与額に保険料率をかけ合わせて算出します。保険料率は保険の種類などによって変動するため、保険ごとに調査する必要があります。
社会保険料の種類
社会保険の種類には以下の5つがあります。
・医療保険
・年金保険
・介護保険
・雇用保険
・労災保険
しかし、「健康保険」と「厚生年金保険」の2つを指して社会保険とする考え方が一般的です。
・健康保険料
被保険者と被扶養者のケガや疾病、死亡、出産に対して給付を行い、安定した生活の維持を目的とする社会保険です。サラリーマンや公務員が加入する健康保険は「被用者健康保険」と呼ばれます。健康保険の運営母体によって主に以下の3種類があります。
・組合保険
企業や組織が個別もしくは共同で設立して運営する健康保険です。個別に設立する場合は、従業員数700名以上が設立条件です。共同の場合は、合計3,000人以上の従業員が条件となっています。加入者は主に規模が大きい企業の従業員と、従業員の扶養者です。
・協会けんぽ
全国健康保険協会が保険者となり運営する健康保険です。協会けんぽでは主に中小規模の従業員の扶養者が被保険者になります。
・共済組合
主に公務員が対象となる健康保険です。国家公務員を対象とした「国家公務員共済組合」と地方公務員を対象とした「地方公務員共済組合」、そして私立学校教員を対象とした「私立学校教職員共済」があります。
・厚生年金保険料
厚生年金保険は公的年金制度のうち、主に民間企業の従業員を対象とした年金制度です。健康保険の保険者はいくつか存在しますが、厚生年金保険の保険者は国となります。
厚生年金保険は、高齢による資金不足、死亡、そして障害などを理由に労働が困難な被保険者に対して給付を行うものです。健康保険が病気やケガによる一時的な労働力の喪失を短期的にカバーするのに対し、厚生年金は長期的な給付が行われる点が特徴です。
変更になった社会保険料をいつ反映させるべきか
従業員の給与が昇給や雇用形態の変更など、給与が大きく増減した場合は標準報酬額の改定を行わなければなりません。しかし、毎年7月に提出する算定基礎届や標準報酬月額が2等級以上変動した場合など、変更された社会保険料はいつから反映させるべきなのでしょうか。ここでは、2つのケースの反映方法について解説します。
算定基礎届を提出した場合
算定基礎届は毎年7月10日までに提出します。社会保険に加入している従業員全てにおいて、その年の4月から6月までの給与を支給月で割ったものを報酬月額として届け出ます。
これによって定時決定、定時改定が行われ社会保険料の等級が決定されます。この場合には9月分の社会保険料から反映をすることとなり、通常の場合翌年8月分までは同じ等級です。
随時改定(被保険者月額変更届)を提出した場合
随時改定は算定基礎届を提出した場合とは別に、以下の条件に該当した場合に速やかに提出するものです。
・昇給又は降給等により固定的賃金に変動があった場合
・変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合
・3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上である場合
算定基礎届を提出した場合と同様に、4月から6月の給与を例にします。7月に被保険者月額変更届を提出し8月に随時改定がなされるので、8月分の社会保険料から反映することになります。このケースでは、再度随時改定がなされない限り算定基礎届の効力が生じる年の8月分まで同じ等級です。
共通の注意事項
上記2つとも共通の注意事項として「会社が社会保険料をどのタイミングで控除しているか」という点が重要なポイントです。社会保険料を控除するタイミングを詳細に分けると以下の4種類あります。
・当月分の社会保険料を当月分の給与から控除(8月分の社会保険料を8月分の給与から控除すること)
・前月分の社会保険料を当月分の給与から控除(8月分の社会保険料を9月分の給与から控除すること)
・当月分の社会保険料を当月支給の給与から控除(8月分の社会保険料を8月支給の給与から控除すること)
・前月分の社会保険料を当月支給の給与から控除(8月分の社会保険料を9月支給の給与から控除すること)
4月から6月の給与を例にしたケースの場合、8月分の社会保険料を実際に納付するのは翌月末の9月です。したがって、一般的には前月分の社会保険料を当月分もしくは当月支給から控除することがほとんどです。
被保険者月額変更届の作成方法
被保険者月額変更届(随時改定)は先述した通り、社会保険料の標準報酬月額が2等級以上変動した際に提出する必要があります。ここからは、被保険者月額変更届の作成方法を解説します。
記入する内容
被保険者月額変更届を作成するためには以下の項目を記入する必要があります。随時改定の対象となる従業員が複数いる場合、1枚の申請用紙で5名まで申請可能です。
提出日(届け出日):被保険者月額変更届を提出する日付を記入します。
被保険者番号整理番号:資格取得時の被保険者番号(保険証記載のもの)を記入します。
改定年月:標準報酬額が改定される年月を記入します。
従前の標準報酬月額:千円単位で標準報酬月額を記入します。
従前改定月:従前の標準報酬月額が適用された年月を記入します。
昇(降)給:昇給や降給が生じた月の支払い月を記入し、区分にチェックします。
遡及支払額:遡及分の支払いがあった月と支払われた遡及差額を記入します。
給与支払月:賃金の変動が発生した月から3ヶ月分の支払月を記入します。
給与計算の基礎日数:給与支払いの基礎日数を記入します。
通貨によるもの:支払われた報酬のうち、通貨によって支払われたものを記入します。
現物によるもの:支払われた報酬のうち、食事や住宅など金銭以外で支払われるものを記入します。
総計:3ヶ月分の給与合計を記入します。
平均額:総計額から3ヶ月間の平均額を算出し記入します。
修正平均額:昇給が遡って対象月に差額が含まれる場合、差額分を差し引いた平均額を記入します。
必要書類
被保険者月額変更届に添付する必要な書類は原則ありません。しかし、例外として降給によって等級が5等級以上下がる場合と、被保険者月額変更届を改定月から起算して60日以上届け出が遅れた場合には別途書類が必要になります。
こうした場合には、固定的賃金の変動が生じた月の前月から改定月の前月までの賃金台帳や出勤簿の写しの提出が必要です。
記入時の注意点
被保険者月額変更届は通常の従業員の他にも、条件を満たすアルバイト・パートタイムなどの短時間労働者の固定賃金に変動があった際には備考欄への記入が必要です。
たとえば、アルバイト従業員の1日の所定労働時間を6時間から7時間へと延長したとします。このケースでは時給単価の変動はありませんが、契約時間の変更によって固定的賃金の変動に該当します。したがって、この例では随時改定の対象となり、被保険者月額変更届が必要になります。
なお上記の条件を満たす短時間労働者とは以下の全ての条件に該当し、3ヶ月全てで11日以上の支払基礎日数であることです。
・週の所定労働時間が20時間以上
・1年以上の雇用が見込まれている
・1月の給与が8.8万円以上
・学業の傍らでないこと
・社会保険の被保険者数が常時501人以上の適用事業所に従事していること
被保険者変更届の提出方法
被保険者月額変更届はできるだけ速やかに提出しなければなりません。作成方法の項でご説明した様式に則り、確実に提出する必要があります。ここからは、被保険者月額変更届の提出方法についてご紹介します。
提出先
作成した被保険者月額変更届は、速やかに所轄の日本年金機構又は社会保険事務センターへ提出します。提出方法は持参、郵送、電子申請のいずれかの方法で行います。
提出した内容に不備がなければ「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知」が発行されます。この標準報酬額月額を基にして保険料額表と照らし合わせ、健康保険料と厚生年金保険料を合わせた新しい社会保険料が確定します。
なお2020年4月以降、特定の法人が行う被保険者月額変更届の手続きは電子申請が義務化されました。特定の法人に該当するのは以下の通りです。
・資本金、出資金又は銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
・相互会社(保険業法)
・投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)
・特定目的会社(資産の流動に関する法律)
提出期限
被保険者月額変更届の提出期限に明確な決まりはありません。しかし、固定的賃金に変動、もしくは賃金体系を変更した場合は、改定月(4ヶ月目)までに速やかに行う必要があります。
出し忘れた場合の対処法
被保険者月額変更届の手続きは事業者の義務です。届け出を出し忘れてしまうと、厚生年金法により、最大で過去2年間分の保険料を納めなければならない可能性が生じます。届け出の出し忘れ自体に罰則が科されることはありません。
しかし、届け出が遅れた分だけ新しい保険料の適用は遅れ、被保険者が受け取るはずだった年金額などに影響が出てしまいます。2年間の保険料をまとめて徴収するリスクなどを考慮し、固定給の変動から3ヶ月目の時点で速やかに対応することが重要です。
7月の社会保険事務担当者は、4月の昇給による算定基礎届や夏のボーナス支給による賞与支払届の提出が重なり多忙になります。一方で、随時改定のための被保険者月額変更届も煩雑な作業と平行して手続きを進めなければなりません。普段から経理業務の効率化を促進するための体制を構築する必要があるでしょう。
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まとめ
社会保険料の変更に必要な算定基礎届や必要な被保険者月額変更届の手続きは、健全な事業経営のために欠かすことができません。昇給などのタイミングでは社会保険料の変更条件に該当するかどうかを確認することが重要です。
該当する従業員がいる場合には事前に確認を行い、速やかに申請を行えるように準備を進めるようにしましょう。
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