貸倒損失とは?計上できるケースや貸倒引当金、仕訳の処理なども解説
売掛金や貸付金などは、会社にとって大切な資産です。しかし、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により取引先が売掛金を支払えない事態に陥るケースが少なくありません。売掛金回収ができないと貸倒れが生じ、最悪の場合には赤字経営に陥り倒産してしまいます。
貸倒れが生じた場合、会計上では、回収できなかった金額を「貸倒損失」として処理します。では、貸倒損失とは、いったいどのような勘定科目なのでしょうか。このコラムでは、貸倒損失の概要と計上できるケース、貸倒引当金、仕訳処理などを詳しくご紹介します。
貸倒損失とは
貸倒損失とは、回収不能な債権に対して損失額を処理するための勘定科目です。回収不能になる原因としては、取引先の倒産や債務超過などが挙げられます。
貸倒損失が発生すると、会計上では貸倒処理が行われ、最終的には、売掛金など営業に関する損失は「販売費及び一般管理費」、貸付金・立替金など営業外に関する損失は「営業外費用」、臨時かつ金額が大きい損失は「特別損失」として、決算書類の損益計算書に表示されるのです。
しかし、回収不能な債権でもすぐに計上できるわけではありません。計上するには、次章で紹介するいずれかの要件を満たす必要があります。
貸倒損失として計上できるケース
先程も紹介したように、全ての貸倒債権が損失として計上できるわけではありません。損失といっても実際に現預金の支出があるわけではないので、脱税対策として安易に処理してしまうと税務調査で指摘される可能性があります。また、貸倒れが発生する事由によって計上する時期も決まっているため、タイミングを逃してしまうと貸倒損失と認められないケースもあるので注意しましょう。
具体的に、法人税法上、貸倒損失として経理処理できるのは大きく分けて3つのケースがあります。ここでは、貸倒損失として計上できるケースをそれぞれ詳しくご紹介します。
金銭債権が切り捨てられた場合
次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます。
(1) 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
(2) 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
(3) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額
このケースでは、会社が帳簿上で損金経理を行わなくても所得の金額の計算上、損金算入されます。
(3)は、(1)(2)と異なり、具体的な法律に基づくものでなく、債権者の行為により貸倒損失となる場合を規定しています。そのため、処理方法によっては損金算入できないケースもありえますので注意が必要です。例えば、債務者が債務超過の場合でも、損害賠償を求め係争中である場合など回収不能と言い切れない場合は、損金算入は認められないでしょう。
また、債務超過の相当期間とは、債務超過の要因等をもとに総合的に判断しますが、一般的に、3年~5年程度の期間と考えられています。なお、債権放棄をする場合、無条件に貸倒損失として損金算入が認められるのでなく、債権放棄の必要性と合理性がない場合は寄附金として扱われる可能性もありますので留意が必要です。
金銭債権の全額が回収不能となった場合
債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。ただし、担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。債権の全額が回収できないときに貸倒損失処理が認められ、債権の一部が回収不能な場合に、回収不能な部分のみ貸倒損失処理することは認められないのです。
この場合、上記のケースと異なり、会社が帳簿上で損金経理を行わない限り、貸倒損失として損金算入できませんので注意が必要です。
なお、保証人として債務を代わりに負わなければならない場合、それを履行することが確実であっても、実際に履行するまでは貸倒損失とすることはできません。法人税法により「保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできない」と定められているためです。また、同じく法人税法に「全額が回収できないことが明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができる」とあることから、債権者の都合により貸倒損失計上時期を操作することは認められません。
一定期間取引停止後弁済がない場合等
次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金等は含みません。)について、その売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます。
(1)継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき
ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。
(2)同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
このケースでも、会社が帳簿上で損金経理を行わない限り、貸倒損失として損金算入できませんので注意が必要です。上記記載通り、3番目のケースはほかの2つと異なり主たる営業活動から生じた売掛債権に限定され、貸付金等は対象になりません。なお、上記(2)の同一地域とは会社が管理している地域区分を意味しており、地理的な区分とは必ずしも一致しないと解されています。
貸倒損失が発生することを見越して貸倒引当金を設定しよう!
経済活動は常に変動しており、今後も資金繰りが安定しない企業が増えていく可能性があります。そのため、貸倒損失をゼロにするのは困難でしょう。そこで、多くの企業が貸倒損失が発生するのを見越して「貸倒引当金」を設定しています。では、貸倒引当金とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、貸倒引当金の概要について徹底解説していきます。
貸倒引当金とは
貸倒引当金とは、売掛金等の回収見込みが立たないリスクをあらかじめ予想し、事前に用意しておくお金のことです。売掛金や受取手形で取引を行っている場合、回収期日が設定されており、それにより事業経営が成り立っています。しかし、取引先が経営不振などの理由で支払い不能になり貸倒れが発生すると、代金を請求する権利が消滅してしまうため、売掛金や受取手形といった資産が減少し、損失が発生するのです。
企業会計の原則に「費用収益対応の原則」があります。費用とは収益を得るために使用したお金のことです。これを事業年度をまたいで計上してしまうと、正確な期間損益の算定ができなくなります。しかし、貸倒引当金を計上しておけば貸倒損失は発生せず、帳簿の整合性も保たれるのです。貸倒引当金は税法上大企業で廃止されているため、強制ではありません。
ただし、会計上は利害関係者への有用な情報を提供する目的で、設定することを定められています。そのため、会計上と税法上で扱いが異なることに注意しましょう。
貸倒引当金として認められる債権
貸倒引当金として認められる債権は、国税庁の法人税上で取り扱うもののうち、債務超過や更生計画など問題のある債権以外が該当します。主な対象債権は以下のとおりです。
・売掛金、受取手形
商取引では、先に取引先へ商材を渡してから売掛金などを回収するのが一般的です。しかし、取引先の経営状況によっては代金回収が厳しい状態に陥ることも少なくありません。常に売上に乗じて変動する売上債権であるため、対象になります。
・貸付金、立替金
企業間で立替を行った場合や個人を対象とした貸付をした場合、帳簿上で貸付金・立替金として仕訳するのが一般的です。上記の売掛金などと同様に、取引先の状況によって回収できなくなった場合、対象として含まれます。
一方で、対象にならない債権は以下のとおりです。
・前払金、仮払金
前払金は、商取引で前もって支払ったときに使う勘定科目です。仮払金は支払目的や金額が確定していないときに用いる勘定科目になります。この2つは、取引先が支払不能になったとしても未回収債権として認められないケースがあります。そのため、安易に使用しないように注意しましょう。
・敷金
経営者として事業所を借りている場合、賃貸契約で敷金を支払うことになりますが、敷金は貸倒引当金として計上することができません。賃貸契約のリスクとして、貸主の経営不振により敷引きなどが契約通りに実施されていない場合があります。このような場合でも、貸倒引当金の対象としては認められません。
上記で挙げた以外にも対象・対象外の債権があるので、詳細については国税庁のHPからご確認ください。
貸倒引当金の繰入方法
貸倒引当金の繰入方法には主に2通りの方法があります。一昔前に主流として使われていた「洗替法」と現在の会計で使われている「差額補充法」の2つです。どちらの方法を選択しても貸倒引当金額は同様なので、選択した方法によって金額に影響はありません。ここでは、それぞれの方法を詳しくご紹介します。
・洗替法
決算時に前期末の貸倒引当金を切り崩し、当期分を繰り入れる方法です。法人税法上の処理方法において洗替法は原則ですが、現在の会計基準において使用機会がないため、大企業ではすでに廃止されています。ただし、中小企業や個人などは税法上繰入が認められています。
・差額補充法
決算時に前期と当期の貸倒引当金による差額を補充する方法です。計上する費用が減るものの、営業利益と経常利益が増える仕組みです。金融機関から信用格付けをされる際、営業利益と経常利益が高ければ評価も上がります。融資審査も通過しやすくなり、多額の資金融資も期待できるでしょう。
貸倒引当金の仕訳方法
貸倒引当金の仕訳は、前期よりも金額を追加するか減額するかによって方法が異なります。貸倒引当金額はその都度変動するため、両方の仕訳を理解しておく必要があるでしょう。ここでは、貸倒引当金の仕訳方法を2通りご紹介します。
貸倒引当金繰入
前期で設定された貸倒引当金額からさらに増額する方法です。資本金が一定以下の中小企業や公益企業、青色申告を選択している個人事業主などに認められています。繰入額の求め方は、一般債権から算出する場合、1か月未満の端数を切り上げて過去3年間の実績で評価するのが原則です。
ただし、債務の種類や取引先の経営状況は都度変化するため、毎期貸倒引当金を見直す必要があります。なお、消費税法において貸倒引当金繰入は不課税取引に該当するため、貸倒引当金への繰入額は課税対象にはなりません。
貸倒引当金戻入
前期で設定した貸倒引当金額を今期に減額する方法です。貸倒引当金の見積もりを変更して過剰に計上されてしまった場合や、取引先の経営が好転して見積り額が下がった場合などには、貸倒引当金戻入で金額を調整する必要があります。貸倒引当金繰入と同様に不課税取引の対象なので、消費税の課税対象外となります。
貸倒損失を防ぐための対策
売上ばかりに目が行きがちで、売掛金回収の管理が徹底されていない企業が多い傾向にあります。しかし、貸倒れが一度発生してしまうと自社の資金繰りに影響を及ぼし、経営難に陥る可能性も少なくありません。事前に貸倒引当金を設定しても、実際に売掛金が戻ってくることはありません。
そのため、日頃から徹底した債権管理が大切になります。支払期日から遅延している場合は、素早く督促して回収するようにしましょう。また、取引先が確実に売掛金を支払ってくれるか与信管理も重要です。上記の対策で貸倒れを回避できるわけではありませんが被害を最小限に抑えることは可能です。
売掛金の回収漏れを未然に防ぐためには「請求管理ロボ」を導入しよう!
貸倒損失を防ぐには、請求業務を正確に行うことが求められます。しかし、日々の定型業務をこなしているとミスや回収漏れが生じることも少なくありません。また、多くの企業が人手不足という深刻な問題に直面しており、限られた人員で請求業務を行うのは効率的ではありません。こうした問題を解消するには、ROBOT PAYMENTが提供する「請求管理ロボ」の導入がおすすめです。
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取引先と請求内容の登録を最初に行うだけで、あとは毎月自動で請求書の発行・送付を行います。入金消込の自動化により、未収対策にも貢献し債権管理の効率化も期待できるでしょう。また、2023年から施行される電子帳簿保存法改正要件やインボイス制度にも対応しているため、法令に準拠した請求管理が可能です。
まとめ
新型コロナウイルスの影響などによって、安定した経営が継続できなくなっています。実際に、赤字経営・倒産に陥った企業も少なくありません。商取引では、取引先が支払不能になると貸倒れとなり、会計上で損失額を貸倒損失として計上する必要があります。しかし、貸倒損失を計上するには決められた要件を満たす必要があるため注意しましょう。貸倒損失が発生することを事前に把握できている場合は、貸倒引当金を設定し相殺します。
貸倒損失の対策としては、日頃の債権管理の徹底が重要です。
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